デジタルオーディオあれこれ

半田ごての人。紙と鉛筆だけではちょっと。

少し目鼻のつき始めた1bitDSM。原石の輝きは磨き方次第。

 pcm1704一筋で、ほぼ二十年。音楽用とは考えていなかった冷やかしのDSMが思いの外の音質で、ならば究極の禁断のけもの道の1bitDSMにも手を出すしかなくて、やってみたらアッサリとマルチビットのDSMを上回る性能に。理論的にはそうなんだけど、理論と現実とはなかなか相容れないのが常。ましてDACチップ無しでどこまで行けるのか、との思い込みは偏見だった。

 

 元々の目論見の、ノイズフロアが出力振幅に依存しない特性は、1bitDSM(DSD)の圧倒的勝利。リニアリティという概念がないので当然と言えば当然なんだけど、振幅が大きくなっても全く動かない。ここん所は完全に最近の市販チップとは別路線になる。市販品はマルチビット系なので、大振幅では必ず特性が悪化する。

 

 何故か0dBFS神話と言うのがあって、特に最近の海苔波形だと、悪い所を使っている。pcm1704ぐらいまでは、0dBFSで一番良い特性と言って嘘ではなかったろうけれど。AK4499というのも悪化する。https://velvetsound.akm.com/jp/ja/technology/

ここの最初の図は、-155dBFSという事でほとんど無信号。常識的なFFTサイズ(64k)だと、ノイズ電力は-124dBFSぐらいになる。

 

 その下の図は0dBFSの時で、ノイズフロアは6dBぐらい悪化するので、オーディオ業界以外の常識ならば、THD+NはTHDの-127dBとNの-118dBでほぼ-118dB。-124dBというならば、Nは-127dBでないと困る。どう見てもそうは見えないから、オーディオ業界独特の測り方があるんだろう。ともあれ大振幅では、少なくとも6dB近くノイズフロアは上がる。

 

 基板の作りに問題があるので正確ではないけれど、made in eBay のESS9038も同じ。これはもう間違いなく0dBFSで使うと最悪。下の図の-3dBFS程度でもかなり悪くなる。opアンプの特性はDACよりも一桁は良いので、ハイエンド機器では-6dBFSぐらいを最大値として、足りない部分はI/Vの所でゲインを稼いでいると思う(DAC-3とか)。

 

 そうすると、もっと遥かに問題のInter Sample Peaksも起きない。青が無信号時のノイズフロア。入力はSPDIF。基本波のスカートの広がりでもS/Nを損してる。audio testerはかなり正確なS/Nを出してくれる。昔の歪率計のノッチフィルターとの比較は、ちと分からないけど。

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 AD9717で作った自作品の5bitDSMも、やはり多ビット品なので大振幅では6dBぐらい悪化する。音楽用としてはあんまり意味ないけれど、DACの校正をした直後なので、THDはかなり良い。数日経つと、-120dBは難しくなると思う。もしも大振幅での悪化がなくて、なおかつ青天井に振幅を上げられるのであれば、青の無信号時の-120dBぐらいまでは、ノイズ電力は落とせる。

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 そしてケモノ道の1bitDSM。これは大振幅での劣化はない。デジタルからアナログへの変換時に、リニアリティという概念が存在しないので。2bitであっても、1bit以外では必ずリニアリティの関係で、大振幅では劣化するはず。DSMの変換を外部の基板でするとかECLでのスイッチングをあれこれと悩んで、二週間前の出来立てホヤホヤから、かなり良くなった。

 

 これは基本波のスカートの広がりがとても狭い。有り体に言うならば、ジッタが小さい。何が関係するのかは良く分からない。同じくアナログFIRのpcm1792のDSD入力も、とても狭い広がりだった。pcm入力はDSDよりも悪いのであんまり調べていない。どんなだったか記憶がない。

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 多ビット品の場合、DSMの次数はそんなに上げる必要はない。5次ぐらいで十分。1bitはケモノ道なので、とても険しい。8次ぐらいの急坂。外部の基板で変調をかけて、1bitになった状態で送るので9次とか10次でも可能。マルチプレクスの関係で、8の上は16。16の中で9しか使わないのは効率悪いので、ひとまずは効率の良い8次。

 

 116.3+0.77=117.07は、青の無信号時の117.87にかなり近い。実際、両者はほぼ重なる。つまり、単純な正弦波であるならば、ノイズフロアは振幅の変化に対して反応しない。何時も同じ値に留まっている。うちの環境では、ノイズフロアの変動の有無は音質に大きく関係する。太鼓がドンと鳴る時、思わずよけてしまいそうな勢いになる。音圧は100dBも行かないのだけど、ノイズフロア変動なしは爆風のような衝撃波になる。

 

 OSRというのは、低い方が良い。理論的には当然。デジタルの領域では、DSMのTHD+Nなんて24bit精度の遥か下で-160dBとか-170dBとか。アナログでの劣化原因の多くは、パルスの立ち上がりがなまる事。パルスの幅が長いほどその劣化は小さいので、OSRは低い方が良い。漏れてくる量子化ノイズを出来るだけ切るために、DSMの次数は上げる。特に1bitでは。

 

 アナログFIRはLPFでもあるので、24tapでもかなりノイズは落とせる。最終的に32tapにするならば、12dB/octぐらいで実用的な所に落ち着くのではと思う。OSRは128にした方が良いかも。128は64よりも少し劣化する。こんな具合。量子化ノイズの漏れは随分と小さくなる。

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 別の問題として、ノイズフロアが-116dB以下になって来ると、ADCの残留ノイズが無視できなくなってくる。今使っているAD7960はSAR型で、DSM型よりもノイズフロアは低い筈。元は4MHzサンプリングで、20kHz帯域でのノイズレベルは-123dBぐらい。チップ自体の特性が揃っているので、モノラル状態で二つパラにした時の値。DSM型で-120dBを超えるのは中々難しいかと思う。

 

なので、無信号時に-120dBと言うのは、実際は-123dBぐらい。-122.6dBとなると、-130dB近い筈。大振幅時のノイズフロアは、ノッチフィルターでも使わないと、正確には測れないと思う。APの測定器なんかはどうしているのだろうか。ああいう再現性を保証しているプロ用の機器の場合、今時のチップだと保証値はアマチュアの実力値よりも普通は低くなる。

 

 ここでのESSの測定値は、先のAKとは違って常識として理解できる。

https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/review-and-measurements-of-matrix-audio-element-x-dac-streamer-amp.7782/

-127dBのTHDと-121dBぐらいのNで、THD+N=-120dB。この人は32kのFFTを使うとどこかに書いていたので、それならばNは-121dBでも不思議ない。但し、なんらかの補正なしで-121dBのNは、ちょっと信じられないのだけど。4Vrms振っているし。

 

 上のサイトに32tone-testなるものがあったので、ちょと試す。20Hzから20kHzまでのlog目盛。100Hz,120Hz150Hz,200Hz,250Hz,320Hz・・・。

まずはmade in eBayのESS。青が大振幅時で、最大値で-2dbFSぐらい。白はそれよりも60dBぐらい低い。分離を良くするためにここだけはFFTが1024kサイズ。なので今まで(64k)のノイズフロアよりも、12dB低くなる。 

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 低い方でかなり悪化するのは、多分ヤスモン基板のせい。むしろここまでの特性が出ているのが驚き。I/V変換の所だけは、電流モードになるように改造しているけど、他はそのまま。SPDIFが一番高性能。

次はAD9717の5bitDSM。低い方では少し悪化するみたい。

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 実は、1bitDSMは小振幅が苦手。大振幅は青天井なんだけど。多ビットのDSMならば、3bitでもこうはならない。単純な正弦波であれば、悪化はしない。こんな32toneだとか、実物の音楽信号の小振幅時にはこういう劣化が出る。正弦波というものは、スピーカーの軸上1mの特性のようなもので、参考値ではあっても音質との相関に乏しいという実例。コンニャクのような役立たずで、一応腹はふくれるがそれだけ。

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1bitDSMを実用化するには、小振幅時の特性がキモ。DSMの特性を少し変えると違ってくるだろうけれど、さてどうしたものか。大振幅時の特性劣化を防ぐのは、多ビットDSMでは無理と思う。1bitDSMの小振幅時の特性は、なんとかなるでしょう。他にもまだ幾つかの問題はあるけれど、大振幅での青天井は他で真似のできない長所。やっぱり1bitDSMに突っ込むしかない。