デジタルオーディオあれこれ

半田ごての人。紙と鉛筆だけではちょっと。

AD7768の最終形。つなぎとしては上出来。

 AD7768のADC基板の改訂版。HDMI-I2Sのコネクターを付けて、Rpiにつなぐためのコネクターも追加。AD7768としては、ほぼ完成。チップ自体の能力としては-130dBぐらいのTHDにはなる。そこまで行くにはなかなか色々あって、アプリケーションノートを参考にして、まあやっとこさ。一番の問題は、入力のS/Hを如何にして上手くドライブするかで、このタイプでは常に付きまとう問題。

https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/application-notes/AN-1384.pdf

 

 それを回避するためという事で、ADからは最近CTSDのAD7134というのが出た。AD7768とは若干ピンアサインが違うけれど、基板さえ作り直せば出力形式などはほぼそのままなので、FPGAの中身を変えれば十分対応可能。こっちはサンプリングも1.5MSPSまで行ける。但し、デルタシグマ型の宿命として高域では量子化ノイズが増えて来るので、帯域は最大で390kHzぐらい。これは十分過ぎる帯域。

 

 最終兵器のAD7134もいずれ試すけれど、今回の基板で、それまでのつなぎ以上の性能にはなった。前回の物だと、なかなかD90のような0dBFSで4Vrmsまで振ってくるDACは厳しい。-3dBFSぐらいからTHDがかなり悪くなってしまう。チップの問題ではなくて、アナログのドライバーの問題として。

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 今回は0dBFS=5.2Vrms(14.7Vpp)ぐらいの最大振幅で、4Vrmsを入れても-2.35dBFSぐらい。0dBFSではないのでSNRは少し損するけれど、元々こっちは残留ノイズを元にして補正する必要があるので、まぁ大勢に影響はなし。USB入力でのPCMはこんな感じ。

 

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 D90の0dBFS(4Vrms)まで振っても、-130dB近いTHDで、恐らくADC側での劣化はほとんどない。APでの測定値だとこんな按配。

Topping D90 Balanced USB DAC Review | Audio Science Review (ASR) Forum

この記事のTHD+N(SINAD)より少し良いのは、おそらく基本波を除去する時のノッチフィルターの特性。AudioTesterの方が少し多い目に取っているので、若干良い目の数字になっていると思う。奇数次のTHDが、上に行くほど段々と小さくなっているのは正しい。二次の出方は少し違うみたいだけど。

 

 電源入れても三万しない基板でここまで取れれば上出来。HDMIのコネクターが付くのは、最近の中国製の高級機は多くがHDMI-I2Sの入力が出来て、そこからDSDも入れられるようになっているので。それともう一つの新たな展開として、DSMの2チャンネル分の変調を、xc6slx9でも使えるようになった事。今まではxc6slx25でしか出来なかった。

 

 xc6slx25で2チャンネル分というのも、実際はなかなかの太っ腹でここまで出来れば御の字と思ってたけれど、世界は広くてxc6slx9に2チャンネル入れちゃった人がいた。そんなんアリかと思ったが、あるものはあるので、ならばなんとかならんかと試行錯誤して何とかなった。48k系だと、48kHz、96kHz、192kHzまでの入力に対応して、5次なら160OSR、4次なら256OSRまで出る。

 

 そのconfig romをこのADC基板に挿して、XMOSから44k系の44.1kとか88.2kを入れてやれば、HDMI-I2SのコネクターからはDSDがLVDSで出るのでD90につながる。FPGAの場合、LVDSのような差動形式はペアになる端子にさえ正と負を配置しておけば、入出力とか規格は自由に選べる。LVDSの入力にして外部からクロックを入れるとか、LVPECLみたいな規格にするのも可能。config rom次第で変幻自在。LVDSのドライバーICだって、そこそこの場所と費用が掛かるので、FPGAは圧倒的に有利。

 

 DSD256にしてD90につなぐとこうなる。

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前回の基板でもムリクリにつないだけれど、やっぱり正式版は特性が良い。これは4次のDSMなので最大振幅がPCMでの-6.5dBFSぐらいまで行く。おそらく、D90DSDはPCMでの-6dBFSで最大値の4Vrmsになるようなゲイン配分になっている。これは良くあるパターン。現実的には、4次のDSMならば-4dBFSぐらいまで振れるのだけれど、2.5dBはISO対策としての保険。

 

AK4499はマルチビットのDSMを1ビットに流用している筈なので、足りない分は後段のゲインを上げて対応しているのだと思う。結果として、SNRが6dB近く悪くなる。THDは小さ目なレベルになるので逆に少し良くなる。これも良くある話、THDとSNRは、どうしてもあちらを立てればこちらが立たず、な関係。

 

AK4499に限らず全ての市販チップの場合、DSDはオマケなので数字的には本来のマルチビットを超える事はない。心理的側面とか、営業戦略としては意味ありだが。実際、帯域外ノイズも、勿論マルチビットの方が良い。これは30mVrmsぐらいのマルチビット。

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1ビットだとDSD256でもこれぐらい。でもSACDなんかに較べると、腰抜かす程に良い。AK4499のDSDは、ESSなんかよりもずっと良さそう。敢えて使う必要があるかは、主観の問題としても。

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1ビットでも、それ専用のDACだとこのぐらいの特性にはなる。赤は元のDSMのデジタル領域での特性。青の変換後のアナログは、勿論必ずそれよりも悪くなる。でもSNRはそこそこの数字になる。レベルをもっと上げた方が数字は有利かもだけど、実使用では逆にマイナスになるので少し低め。

 

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帯域外ノイズもそこそこなので、AK4499のマルチビットよりも少し悪い程度に収まる。

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 ともかく、まずはADC。大工の腕は道具を見れば分かるように、DACの質は既にADCで決まっている。敗着はADCってやつ。

 

 

APの内部写真が出ていたので追加。

 

Archimago's Musings: A look IN the Audio Precision APx555 B-Series. Thoughts on price and value in audio products.

やはりADCは二種類を使っている。この作りなので$30000は仕方ない。プロ用とはこういうもの。問題は開発に時間がかかるので、ADC等(AK5394とAD7760)はすぐに時代遅れになってしまう。最新版(AD7134)で自作して、自分に必要な部分だけに特化するならば、破格の値段で同等かそれ以上になってしまうのが半導体の世界。けものみち製で公式の物ではないけれど、数字は嘘をつかない。特に結果がデジタルのADCでは。