デジタルオーディオあれこれ

半田ごての人。紙と鉛筆だけではちょっと。

CDとレコードの違いとか、必要な帯域とか。

 CDとレコードの音の違いについて、当たり前なんだけどほとんど誰も言ってない事。知る限りでは、初めて見た。11分ぐらいから出て来る。

https://www.youtube.com/watch?v=Tu3yiuSh8aA&t=1037s

レコードのSNは60dBぐらいなのに、一般的には98dBと言われるCDと同等か状況次第ではそれ以上の音になるのは何故か、という疑問。良くある答えは、デジタルとアナログは林檎とオレンジなんで比べられない、というやつ。どっちも時間軸上の電気信号なんで、林檎と林檎なのは明白なんだが。

 

 アナログの場合、-60dBFSにまで信号が小さくなったとしても、歪はあまり変わらない。むしろ良くなるのが普通。信号が-60dBFS、ノイズが-60dBFS、歪が-90dBFSぐらいになる。でもSNは確かに0dBになる。CDでは、信号が-60dBFS、ノイズが-100dBFS、歪が-100dBFSぐらい。大雑把には。SNはまだ40dBぐらいは残る。

 

 この状態だと人の耳では両者にあまり差が出ない。信号自体の質には大差がないので、十分に識別可能。都会の雑踏の中でも会話が成り立つのと同じ。SNがマイナスになったとしても、それ程の問題にはならない。むしろ、レコードのノイズは暖かみとして判断されることが多いので、聴感としてはほぼ無視できる。弱音部での音の良さは好感につながる。音が大きくなると相対的にノイズも歪も感知しないので、やっぱり両者に差はあまりない。

 

 更にはCDだと多くの場合は大量のISOが出て来るし、編集も雑。所謂、海苔波形。レコードでクリップする事は無いし、編集もマシな場合が多い。そんな事情があるので、良く管理された環境でのレコード再生がCDを上回るのは当然の結果ではある。ただし、CDに書かれているデータと、レコードの中身は同じ曲であっても全くの別物なので、そういう意味では林檎とオレンジの比較でしかない。そこを無視するならば、レコードの方が良いという場合は多くなる。

 

 論より証拠なんで、テストレコードをかけて調べてみれば一目瞭然。大きめの時と小さめの時の歪。レベルが下がると、ほぼ全ての場合で歪は小さくなる。DACでもだいたい似た傾向。カートリッジはMCL-1000。 こういう事実があるので両者の聴感上の違いは小さい。 

 

 しかし、CDに高域補正がないかといえば、それは不正確。今ではほとんど使われなくなったけれど、プリエンファシスというのはあった。CDプレーヤーはこれの有無を検知して、かかっていればディエンファシスで元に戻す。なので聞いている人は関知しない。但し、リッピングをした時はその限りではないので、多くの場合はそのままになる。プリエンファシスはかかりっぱなし。

 

 知らずに聞いていると、これは分からない。そこそこ高域が上がっているのだけど、知らずに聞いているのが普通。うちでもピアノソナタなんかずっとそれで聞いていて特に不満はなかった。バイオリンだとあるかもだけど。高音が金ぴかの時は、怪しいかもねという話。

 

 レコードの周波数帯域となると、これは主観の問題であって、あるとないの基準が何かで決まる話。20kHz以上があると言えばあるし、ないと言えばない。そもそも楽器の高音だって同じ事。20kHz以上があると言えばあるし、ないと言えばない。楽器の場合は倍音というけれど、倍音と歪の区別は不可能。倍音なのかもしれないし歪なのかもしれない。どんな名前で呼ぶかの違いしかないと思うけど。数字的には。

 

 レコードの場合も、楽器の倍音(歪み)、録音の時のマイクの歪、再生の時のカートリッジの歪を区別するのは不可能。CDであれば、有無を言わせず22kHz以上はないと言えるけど、レコードでは解釈の問題にしかならない。具体例をテストレコードで見ればこうなる。Lチャンに、5kHzから12kHzぐらいまでのホワイトノイズを入れた時。Rチャンはクロストーク

 倍音の10kHzから24kHzぐらいと、三倍の15kHzから36kHzぐらいとが出てる。少なくとも、FFTでは確認できる。一般的にアナログの世界では、こんなレベルは測れないので「ない」、という事になってる。でもあると言えばある訳で、完璧に消えるCDと比べるならば、あるとしか言えない。なので定義とか解釈の問題としか言えない。

 

 これをカートリッジの歪と言うのか倍音というのかも解釈次第。楽器が倍音ならばカートリッジだってそうなのでは、という話はありでしょう。低い周波数だと特性は良くなる。これだと、三倍の所はナシと言っても差し支えなさそう。クロストークも悪くない。まぁ解釈次第ではあるけれど。あるかないかは自己責任でどうぞ、という話。

 おそらく、良い環境のレコード再生ならばCDよりは良いのでないかなとは思う。ノイズ成分が暖色的な音にしてくれる。CDは寒色的になる傾向がある。まぁ、林檎とオレンジではないとしても、両者の比較は簡単ではない。まずは実物で確かめてみましょう、そうすれば無用な誤解も減りますよ、というのが当たり前の結論。

 

 高い方が、そういう定義で決まる類であるとして、低い方はと言えばこちらは少しばかり数字の世界になる。CDは記録という話であればほとんど低域に制限はない。標準的なテストCDだと、再生できるかは別として4Hzが最低周波数。こんなの必要ないよね、というのが感覚的な常識ではあるけれど、数字的には低い方に制限はない。FFT的にと言うべきかも。実際の楽器でも、ほとんど制限はない。16Hzのオルガンが最低というのは、数字的に間違っている。

 

 どこまで下があるかといえば、答えられない。それは演奏者の決める事であって楽器で決まる事ではないから。オルガンのような場合は楽器で決まると言えるけれど、打楽器であるとかピアノでも弦楽器でも、決めるのは演奏者。1Hzだって出る。出てしまうという方が適切かも。楽器から出た音を完全に復元するには、そこまで必要になる。FFTの意味を考えれば当たり前の話。感覚的には理解しづらいとしても。

 

 太鼓であってもトライアングルであっても一秒間に一回叩くならば、周期は一秒。それをFFT解析すると、一秒の整数倍の周波数(1Hz)が嫌でも出て来る。それらを全部取らないと同じ信号の復元は無理。数字的には当たり前の話。勿論、太鼓とトライアングルでは、最も大きな成分の周波数は違うけれど、トライアングルでも一秒の整数倍の周波数が出る。なので、1Hzから必要。

 

 そんな低周波は耳では聞こえないけれど、体では感じている。本当にちゃんと低音が出るシステムで、低域を20Hzで切る場合と切らない場合とを比べると、切らない方が間違いなく良い。切ってしまうと、臨場感とか生き生きとした感じが消える。トライアングルならば同じかもだけど、太鼓ならば切ってはダメ。ちゃんとした低音は中々でないので、実地の確認は難しい。サブウーハーとかでは、全く話にならない。

 

 更にクリスタルボウルという楽器は、何にもしなくても平気で2.5Hzなんてのを出してくる。262Hzというのが勿論主成分であるけど。どんな構造なのかは謎としても、これの場合は、あるものはある。

  低い方を拡大すると、これ。2.34Hzの整数倍が延々と続く。

 これは2.34Hzの周期で叩いている訳ではないのだけれど、とにかくあるものはある。数字として否定はできない。録音するならば、再生は出来ないだろうとしてもDCまで必要でしょう。という訳で、解釈次第の高域は比較的に単純で、オーディオの闇と光明というのか解脱は低い方にこそある。この闇を通り抜けた先には、おそらくは光が。単純に、低音の事なのでスピーカーは部屋の一部と割り切って、部屋を建てて行けば答は待っているだろうという話。

失われた術。

 もう一つ面白い話で、10Hzの謎。

https://www.youtube.com/watch?v=OJkf_rWD-NE

これは知っている人は対策するけれど知らなければそのままというヤツ。レコードの再生をすると10Hz近辺にピークが出る。これはカートリッジとアームで変わる。相性という話にされてしまうかも。サエクの407-23とMCL-1000だと7Hzぐらいに来る。別のMCだと14Hzぐらいだった。

 

 レコードはデジタル化しないと意味がないので、ADC側での対応という話になる。レコードをそのまま聞くのは懐古趣味としてはありとしても、それ以上にはならない。デジタル化して適切にノイズ処理をして初めて意味がある。ノイズ処理とか或いはマスタリングというのをレコード会社にやらせると、金の逃げていく音を聞く羽目になる。入魂のマスタリング、渾身のマスタリング、究極のマスタリング、耳からウロコのマスタリング、などなどが出るたびについつい、「買っちゃった」、になるから。

 

 ADCはデジタルなのでこの低域カットもデジタルフィルターになる。通常HPFはLPFよりも同じタップ数では性能が落ちる。4096のタップでもこのぐらいの低い周波数ではちょっと厳しい。60dB/octぐらいは入れたいので。そこでLPFで作って、これを元の信号から引き算して実装するのがベター。たしか、7Hz用と14Hz用の二つを作ったと思う。7Hz用の10Hzぐらいから落とすのを使っている筈。

 

 これはRX7なんかでも低い周波数の対応はしてなかったと思う。デジタルのFIRが一番の解決策。アナログでは中々落とせないでしょう。デジタル型は自作品でしかないだろうけど。 

 

音の悪いホールって。

 技術的に豊富な経験があってその方面の会社もやっている人が、サントリーホールの音が悪いと書いたら凄い反響があったというビデオをアップしていて、とても面白い。

www.youtube.com

オーディオ関連で技術方向に詳しい人は、あんまり生の演奏は聴かない。スピーカーの位置を1mm単位で設定するとかの方向に行ってしまう。戦の無くなった江戸時代の武士みたいな感じになる。本職を試す現場がないので精神論に傾いてしまうような。武士道は死ぬ事と見つけたりとかの。本来の演奏を聞くのが目的ではなくなって、装置の設計とか調整が本職になってしまう。

 

 この人はビデオ見ても本来の目的を科学的な観点で追いかけてるし、今も現場にいるようでピンボケしてない。某有名DACメーカーの人なんかは、完全に圏外になっちゃってて有名。ほとんど同意はされていないらしいけど、サントリーホールの話は分からなくもない。但し、何処に座ったかが書いてないようで、そこは残念。

 

 サントリーホールは何度か言った事があるので、納得できる部分は多い。座る場所次第で大きく印象が変わっただろうとは思うけど。他の記事を読んでみると、割と一階の前の方に座る傾向があるみたいなんで、サントリーホールもその場所だったとするならば、ガッカリは納得。たぶん、音が全部頭の上を通り過ぎて行ってしまうような感じになる。当然、宜しくない。

 

 ホールってオーディオ的な言い方をするならば、間違いなく最大出力という概念がある。それを超えるとアンプと同じでサチる。アナログなんでデシタルほどに露骨ではないけれど、明らかに質は落ちる。何処が最大出力かは些か決めずらい。個人の感性に依存するので。いつも思うのは、ホールの一番良い音と言うのは、楽団員がそれぞれに自分のパートを小音量で練習している、本番前の時だと思う。今まで行った全てのホールでそう。サントリーホール、ミューザ川﨑、札幌のきたら、とか。

 

 一番極端だったのは、鼓童の太鼓を狭い市民会館みたいな所で聞いた時。もうクリップしまくり。あの太鼓は屋外で聞くのがベストでしょう。あの大音量に耐えられるホールなんてないと思う。PAも最悪だったし。好みの問題として、ましなPAにも遭遇したことはない。サントリーホールの場合、最大出力は比較的に大きめだけど、一階席はダメね。音は全て通り過ぎていく。二階席ならばそんなに悪くはない。バイオリンの音はレコードで聞くようなオンマイクにはならないけれど、バランスとしては悪くない。

 

 どこのホールであっても、響きを重視するならば二階席になるだろうし、そうなると録音で耳にするようなバイオリンのソロは聴けない。録音とは、なんとかその二つを両立させて不可能を可能にしようとする自己矛盾の行為であるんだろうけど。サントリーホールの一階席はナシでしょう。低音は頭の上をワルキューレの騎行のように飛び去るのでした。

 

 普段は二階席なんだけれど、一度一階も試そうと真中ぐらいに座った事がある。不運な事にこの時はべートーベンの五番だった。この時はチェコフィルで指揮者(ビィオフラーチェク)の意図として、「五番はコントラバスの曲だろが」、となっていた。五番の演奏になると、コントラバスが五人だったかずらずらと普段ならばティンパニが陣取る一番後ろに出張ってきた。最後列にコントラバス五人。

 

 ではありながら、低音は全て宙に響くばかりでおもわず後ろを振り返って飛び去る低音の尻尾でもつかめないかと思うばかりに、すかすか。二階席で聞くべきだった。そうすれば指揮者の意図の通り、コントラバスの洗礼を顔面で受け止められただろうに。残念。生の演奏とはそんな一期一会で、外れもあれば当たりも出る。チケット価格の割には当りの出る確率は低い。生なら何でも良いという事は無い。外れを以て反面教師にする覚悟が肝要かと。外れても料金の発生しないオーディオはその点では有利。

 

 クラシックの場合、何処に座るかが大事。指揮者の顔を見たいからと対面している所に座るのもアリだろうけど、音は良くないでしょう。ホールの評価をその場所でする事は無いだろうとしても、座る場所が大事。オーディオでもどこで聞くかは重要。それはスピーカーの位置を変えるのと同じ意味。聞いている音とは、音源からの距離と僅かばかりは温度、ならびに部屋での反射で決まる。温度が変わると波長が変わり、距離の変化と等価なので。現実として、温度差に合わせた特性の補正の必要はないみたいだけど、数字的には大きく変わる。

 

 

 

 

 

D90(AK4499eq版)のDSD入力の特性。

 USBstreamerというのは、192kHzまでの入力が出来るので使ってみた。PCと電気的につながるので条件次第では余計なノイズ成分が出るかもなんだけど。一つ前のADC基板はRpiとのインターフェース用に外部コネクターの端子が乗っているからこれを流用すればつながる。HDMI出力もあるのでD90DSDでつないでデジタルとアナログのデータを同時に取る積りだった。

 ところが挫折。アナログは上手く行かない。ADCはUSBstreamerのスレーブにならないといけないので、クロックはUSBstreamerからのを使う。これがダメ。デジタル的なサンプリングには問題ないレベルだが、アナログのサンプリングには使えないぐらいジッタがひどい。現実として、音声の領域でもクロックジッタの影響を受ける事はある。普通言われているのとは全く違う所でだけど。

 

 SPDIFだと、ESSのようにASRCを入れない限り115dBぐらいのSNRにしかならない。RpiのクロックはもっとひどくてCD並のSNRにしかならない。オシロスコープで見ても止まっていない程度なんで当然ではある。toppingのUSBも褒められたものではない。SNRの劣化と言う形では出てこないけれど、デジタルとしてはお粗末なレベル。USBstreamerのクロックだと110dB行かない。

 青がUSBstreamerのクロック。赤は基板に乗ってる$1ぐらいのクリスタル。クリスタルは電子部品の中では大谷のように飛び抜けているので、変な使い方をしない限り$1であろうが温度管理した$100越える様なのでも、音声の領域で差はない。$1に敵わない程度のクロックはとても多い。ちょっと変な時は、少し良さ目のFFTアナライザーで見ると一目瞭然。

 USBstreamerはこんな感じ。本来は22.5792MHzの所に一本だけ出る。$1のクリスタルだとこうなる。現実の基板でクロックのジッタがあると、大抵はSNRの劣化と言う形になる。基本波の横に余計なのが出るのは、意図的に余計な特定の周波数を混ぜたような場合で、現実世界でそういうのはまずない。机の上だけの話。

 デジタル的なサンプリングさえできれば良いので、二つのクリスタルを載せていないんだと思う。同じXMOSでも二つ載せているDDCは、完全な線一本であってI2SでD90につなげば何の問題もない。120dB越える様なSNRのADCやDACに使えないクロックは意外と多い。普通に$1のクリスタルで普通に発信させれば音声領域での問題はないのだが。二層基板とかは普通でないので、門前払い。

 

 仕方なくD90のアナログ出力を測る時は基板上のクリスタル。デジタルだけの場合はUSBstreamerからのクロック。せっかくなのでアナログとデシタルの比較の前にデジタル同士の比較。1bitDSMの次数の違いで、デジタル領域ではどのように特性が変わるのか。PCMtoDSDのチップ(AKMとか)にはデジタル領域の特性は出ていないし、まして次数での違いは分からない。

 

 SACDはおそらく七次ぐらいだと思うけれど、あれは古い規格なのであまり特性は良くない。入力がゼロになった時は別処理になって01001011を繰り返して出すようだし、極を作って特性の改善もしない。まだそんな知恵がなかった頃の規格だと思う。DSD128も周波数の違いだけだろうから、実質的には今の六次のDSD64(青)と同じ程度の特性と思う。

 原理的には六次のDSMだと三個の極を入れられるけど、そうすると低い方での特性が悪化するので最大でも二つ。上の図だと20kHzと15kHzの辺り。これがないと、五次と同じぐらいの特性になってしまう。これは完全にデジタルの領域の話。五次だと二つは厳しいので一つ。五次ではSNRが109.2dBとなるので、アナログ領域でもこれ以上にはならないからボツ。DSD64では少なくとも六次以上。

 

 但し、次数が上がると最大振幅は下がる(五次:-5.0dBFS、六次:-5.7dB)のでアナログ領域での最大振幅も減ってしまいSNRでは不利になる。最大振幅を上げるためには次数は低い方が良くて帯域外ノイズも減る。替りに20kHz帯域でのノイズは五次の様に増えるので、両方のトレードオフで決まる。つまりDSD64では、六次が最適

 

 DSD128だと話は変わる。

 これだと五次でもSNRは136dBなので、五次で問題ない。DSD128での最適は五次。但し、DSD128になると周波数が上がるので、DACの方式次第ではアナログ変換の段階での劣化が無視できなくなる。AK4499eqのようなモノリシックだとほとんど問題はない。ESSでどうなるかは実機がないので分からない。AK4499eqのDSDはかなり優秀だとは思う。

 

 なのでディスクリートでは2bitのDSD64というのがアリ。

 2bitと言っても実際は三値なので、二値の1bitとは感覚としての差はあまりない。数字の世界では随分と違う。SNRが7dBぐらい違うのはデジタル領域の話なので、アナログ領域での差にはならない。最大振幅の差が圧倒的。3.4dBぐらい違う。これは痺れる。ディスクリートではアナログFIRでタップを増やすのだが、これは32タップか64タップかというぐらいの差になる。ディスクリートで64タップは現実として無理。モノリシックでしか無理。対称性と言う点でも2bitは1bitよりも上で、違いは数字になって現れる。

 

 AK4499eqだとDSD256という選択もあり。その場合は五次の必要もないので四次で十分。DSD128の四次はちょっと無理。DSD256ならば楽勝。最大振幅も-4.21dBまで行ける。これ以上に入力を上げると、変調器は股裂きになるので発振するDSMの場合、一度発振すると信号レベルが下がっても正常動作にはならない。ハードの変調器だと、電源入れた時にはその状態になるので、普通は全く動作しない。 

 なのでハードウエアでの内部リセット回路が必ず入っている。ソフトでシミュレーションする時も、次数に応じて最大振幅を制限しないと上手く行かない。オフラインでのソフトウエア変換でもその問題は必ず出る。ISOで最大振幅越えたりしてもダメ。内部リセット次第で変換の質は違って来ると思う。ハードの場合、検出してからの復帰は早い。

 

 最後にD90HDMI経由のLVDSでDSD(デジタル領域)を入れて、アナログの出力との比較。使い物にならないのは分かっているけれど、五次のDSD64。デジタル領域で既に108.9dBなので、そのぐらいのSNRにしかならないのは自明。青が上がって来ると、当然ながら赤はそれと同じレベルになる。机の上の話なら、デジタル領域のノイズは限りなく減らせる。アナログ出力にとっては、全く意味がない。

 

 次は実用的な六次のDSD64。20kHzの少し上ぐらいまでデジタルのノイズはアナログの下なので、アナログ側の制約のみで特性が決まる。デジタル側は単純にロジック回路の問題で、FPGAならば掛算器、高速加算器、内蔵メモリーの問題。デジタル側は、アナログノイズの下になるような回路設計が必須であるという事。

 DSDでなくてI2SでPCMを入れてやれば、120dBぐらいのSNRになる。これはUSBの時よりも少し悪い。本来、差はないのだけれど、基板上でのノイズの影響かな。DSDで更に悪化するのは、DSDの最大値がPCMの0dBFSにならないので内部で上げているから。-2.03dBFSは4Vrms(D90の0dBFS)よりも少し大きいから、6dBぐらい上げていると思う。その結果の劣化。このぐらいなのはとても優秀。火事で燃えたのは残念。

 

 次は五次のDSD128。六次のDSD64よりもSNRが良くなるのは、最大振幅が上がって来て、信号レベルが大きくなるから。DSD64とDSD128で、AK4499eq自体の劣化はほとんどない模様。ディスクリートでは中々こうはならない。 

 

 六次のDSD128。THDの違いは誤差なのであんまり意味はない。ADC由来かも知れないし。AK4499eqはDSD128でもへいちゃらなんで、六次もなくはないけど最大振幅の問題があるので、やはり五次が正解。

 

 四次のDD256。四次なので最大振幅は上がるけれど、AK4499eqの劣化が少しあるようで、SNRは五次のDSD128よりも少し下。誤差の範囲だけれど。内蔵してるアナログのLPF次第としても、帯域外ノイズはこっちの方が小さくなる。この感じだと、DSD512では却って特性は悪くなると思う。D90DSDで使うのならば、五次のDSD128が数字としては一番良さそう。 

 火事の後のAK4499exでは、もうDSDが直接入る事は無いのかな。相方のチップは、5bit、6bit、7bitの出力しかしない様だったから。特性としてはそっちが上なので、敢えてDSDに拘る必要はないし。FPGAから1bitではなくてそういうbit数で出すのも、勿論可能。bit数の変更は、OSRと同じで比較的に簡単。次数の変更は些か面倒

 

 1bitでDSMを使うのは、あんまり賢くない。モノリシックならば5bit以上の7bit以下はとっても妥当。ディスクリートならば、2bit。工場持ってれば、モノリシックで2bit作る。楽に高性能になる。きっと5bitとかよりも。

究極のADC。CTSDというやつ。

 DACディスクリートの2bitDSMという獣道路線で決着したので、少し気になっていたCTSD型ADCのAD7134の試作基板を作った。今のADCはほとんどがDTSD型。SARも少しはあるけれど、性能的にはデルタシグマ系が有利だと思う。両方作ってみた経験として。そのデルタシグマ系にも二つあってDTSD(Discrete Time)とCTSD(Continuous Time)。と言っても、CTSDはAD7134だけでないかと思う。

 

 今流行のchatGTPに聞いてみると知らないとは言わないので、勿論知ってますよああだこうだとか言い出す。基本的なアルゴリズムとして、あれは確率的につながる可能性の高い単語をずらずらと並べていくらしい。筋は通っているんだけど、間違いは多い。違うよと言えば、すいません間違えましたおっしゃる通りと言ってから、もう少しありそうな話を語り始める。

 

 何度も話してる間にかなり内容は良くなる。三回ぐらい会話すれば、普通に検索して出て来るような話以上の中身になって行く。その後は違う人から聞かれた場合でもその内容で答えるだろうから、どんどんと回答は改善されていく。僅かな期間で一気に正確になると思う。キレる事は無いし、生半可な知った積りで分かっていない人間よりはずっと優秀。

 

 但し、AD7134以外のCTSDを教えてくれと言うと、頓珍漢な答しか返ってこない。普通のDTSDばっかり平気で上げてくる。何度違うと言ってもダメ。多分、今はまだ他にはないのだろうと思う。かもしれないという想定であれこれ上げて来るだけで、ハッキリとSARと書いてあるのまで出してくる。データシートを見てはいない。矛盾している質問に対してはボロが出てしまうみたい。

 

 CTSDの利点は、理論的背景は分からないのだが、サンプリング周波数の近辺であってもデジタル的なアンチエイリアシングが100dBぐらいかかる事。普通は全く効かないのでアナログ的なフィルターで不要な周波数を落とすしかない。これが出来るのはCTSDだけ。更に、入力にはS/Hが不要。入力は6kΩ程度の抵抗負荷で、チャージ用のコンデンサに急激な充電電流が流れる事は無い。

 

 だいたい片チャンネルに4個ぐらいのADCをパラにするので、ステレオだと8個。これが一気に充電電流を流すので、ADCのドライブは大変。ローノイズで且つ低歪みで5Vppぐらいまで振らないといけない。現実として、ADCの性能を決めてしまうのはそっちの方。1個のADCならば問題なくドライブできても、8個となると大抵はこける。CTSDのような抵抗負荷にでもして貰わないと、8個のドライブはきつい。

 

 更にAD7134はASRCを内蔵しているので、オーディオ用の44.1kHzとか48kHz系での読み出しも簡単。普通のDTSDのAD7768だと、元々のクロックを合わせないとダメ。餅は餅屋なので、ADCやDAC専業のADの方がESSとかAKMよりは最先端。ADの唯一つの難点は48kHz系とのインターフェースだったけど、それも解決。なのでスペック的には天下無双で無敵。こんな基板。

 

 AD7134は4個のADCなのでステレオ用として二個必要。ADC自体の入力は5Vppが標準。入力感度としては、5Vrmsと2Vrmsぐらいが必要。このぐらいの低ノイズADCの場合、抵抗の分圧器は既に鬼門。ADC自体の残留ノイズよりも抵抗の熱雑音が主体になってしまう。なので分圧などは考えず、あっさりと二種類の感度のを作る方が簡単で高性能になる。市販品では禁じ手だろうけど。現実として、高性能の抵抗分圧器ほど難しいものはない。

 

 2Vrmsの残留ノイズは-128dBを超える。8ADCのパラ。一個でも-120dBは超えるので八個ならば-129dBとなるのが普通なんだけど、opアンプのノイズが含まれるのでそこまでは落ちない。抵抗が入ると更に悪くなる。-128.23dBは驚異的。AD7768でも八個パラならばこれぐらいになるだろうけれど、THDは理想的にはならない。S/Hの充電電流が悪さするようで四個パラが限界。 

 信号を入れるとこんな感じ。入力はDIYの2bit-DSMの出力で2Vrms。残留ノイズが-128.23dBでも、入れてる信号が-120dBぐらいのノイズレベルだと少しの補正は必要。実際は120.5dBぐらいかなと思う。入れてる信号が-128.23dBでも測定値は-125.23ぐらいにしかならないので。補正ゼロのためにはADCの残留ノイズをゼロにする必要がある。

 APの測定器であれば、ドライバーの中でFFTして補正しているんでないかと思う。そこまでは無理なので可能な限り残留ノイズを小さくして、-120dB以下のDAC相手でも1dB以下の補正で済むようになってれば、まあまあ良いのでなかろうか。一昔前は、ノッチフィルターで基本波を落としたりしてたけど、特定の周波数にしか使えないし残留ノイズは一気に悪化すると思う。今ならばCTSDが正解。

 

 これは最初の試作基板でアナログ回路に少しジャンパーで修正が入ってる。その影響か少しだけTHDが悪い。二次で悪化しているので、微妙なプラス側とマイナス側のアンバランスかと思う。でも歪の出方が前のとほぼ同じで、たぶん正しい。大抵の場合、同じに作ったはずの二枚の基板でも、-120dB以下のTHDはあんまり一致しない。その場合は恐らく両方とも不正確。二枚で一致している時はかなり信用できる。

 最初の基板をステレオで使うとこれ。理想的には、LとRの数字には一致してほしい。今までの経験として、SARやDTSDで-120dB以下のTHDがLとRで一致する事は無い。APの測定器でも怪しいと思う。これはモノラルの八個パラと高次の歪の傾向が同じで、S/Nだけが少し悪いのでとても優秀。LとRのずれもほとんどなし。CTSDならではの特性。 こんなのは初めて。

  5VrmsはAK4499EQ版のD90で。THDはもうちょっと良いのかもしれない。-130dBぐらいまで行く時も過去にはあった。誤差の範囲だとは思うけど。こっちもS/Nはたぶん121.5dBぐらい。

  ステレオにすると、少しLとRで差が出る。こっちはドライバーに入ってくるレベルが高いのでその辺りの影響かなと思うD90は出力抵抗が100Ωでそれも関係してる感じ。AD4898はソースの出力抵抗に少し敏感。その問題がなければ、ADC自体は同じく5Vpp振れてるので二次の歪はもう少し小さくなる可能性は高い。でもTHDの傾向は同じなので悪くはない。

 5Vrmsの設定だと、残留ノイズは少し悪くなる。opa1632を経由するのでその残留ノイズと抵抗の熱雑音の影響。反転アンプでは必ず抵抗が入るので熱雑音的には不利。2Vrmsの場合は、非反転アンプのみで熱雑音的には有利。液体窒素で冷やすとかしないともう無理なレベルまで、最新のADCの残留ノイズは低くなってる。

 世の中には、S/Nを測る人は現実としてほとんどいない。多くの人はフリーソフトのREWを使っていて、おそらくはデフォルトになってるdBFSで使ってる。あれは何故かS/Nを測るようにはなっていない。S/Nは名前の通りで、信号とノイズの比率。REWは常に0dBFSを基準にするので、信号レベルを下げてもS/Nはそのままで変化なし。確かにNと書いてあるだけでS/Nではないので嘘ではないのかもだが、変。

 

 普通にS/Nと言う場合は、縦軸をdBcにするしかない。そうすると信号レベルに連動するようにはなるが、-10dBにしても表示は0dBFSの所に張り付いたままで感覚として変。要は、常に0dBFSを基準にしてしまう仕様。Nの計算も以前の版では明らかに変だった。最新版にしてからは他のソフトと同じような数字になったようだけど、FFT表示がちょっと粗いしステレオ表示もできないみたい。普通にS/Nを測るには不向き。

 

 AudioTesterもS/Nが変な数字になる事はあって、基本波の除去をどこまでするかとかで変わるのかなと思う。アナログの120dB前後の数字だと間違いはないようだけど、デジタルの140dBぐらいになるとchatGPTみたいになる事はある。FFTの表示から大体の数字は予想できるので、ああまたか程度で致命的ではない。APとかはさてどうなのか。

 

 ところが不思議な事に、現状では最善と思われるAD7134が何故か保守品種になっている。新規採用には非推薦の扱い。なのでいずれ廃盤になるはず。新しいのに切り替わるのか、はたまた闇の彼方に消えるのか。従来品とは一線を画す性能なので、軍事用のみで民生用にはもう出さないよ、という意味なのかなどと考えてしまう。いまはまだたくさんの在庫がデジキーとかにあるんだが。

 





 
 

 

終に2bitDSMの完成。八台作るのは大変。

 三年ぐらいかかったDSMディスクリートDACが八台完成。マルチシステムの関係で、低音側と高音側の2チャンネルとそのためのX-overが入ったDAC。こんな構成のは自分で作るしかない。元々マルチに最適な装置は数が少なくて、市販品で作ると欠点の方が大きくなってしまいDIYでしか真価は発揮しないのだけど、デジタルの場合は更に。

 

 これまで使っていたのも同じ構成でパワーアンプとの接続も合わせているので、DAC部分だけの入れ替え。パワーアンプというのは九割方は保護回路だとかバイアス電流の制御だとかで、アンプの部分はほんの僅か。マルチなので低音用と高音用では出力もかなり違う。とはいえ、低音用が5Wで高音用が1W程度。低音側でもスピーカーは100dBm/Wを軽く超えるので、その程度で十分。

 オーディオ製品の場合、基本的に基板の外に電線を出してはいけない。出すと、外来ノイズの影響を排除できないので、120dBのようなSNは到底無理。DAC等のグランドはこれこそが正に「仮想グランド」であって、真のグランド電位は大地アース。つまりは地球。AC100Vを使う限りはこの無間地獄からの解脱は無理で、全ての電線は大地アースに向かうノイズ電流の経路になる。

 

 現象としては、何をやっても音が変わるとか、正月は音が良いとか、電線で音が変わるとか、オカルトのアース関連グッズでも大きく変わる。変化するだけで決して良くはならない。ついつい変化≒改善の気になるけれど、ほんとに改善したのならばもうそのままで変更はしないもの。スピーカーの位置も然り。ほんとに良くなったのならば、調整は忘却の彼方となって後は聴くだけになる。音の良さとは、調整に逆比例。

 

 デジタルデータの場合、トランスポートのようなものからデジタルデータがDACに入る。USB、LAN、IIS、SPDIF等がその手段。SPDIF以外は電線なのでボツ。アイソレートトランスは、高周波成分に対しては気休めにしかならない。手段は光しかないのだが、SPDIFは構造的に120dBのSNは出ない。非同期で取れば可能だけれど、マルチシステムでは各DACの周波数が合わないのでやはりボツ。

 

 SPDIFはクロックの再生に問題があるので、例えば位相変調のような形でデータを送れば問題なく120dBのSNは取れる。他にも方法はあるだろうけれど、FPGAを使うのであればこれが簡単と思う。なのでSDカードからwavファイルをトランスポートで読んで、光で八台のDACに送る。各DACの周波数は同期するし、ボリュームもトランスポート側で制御する。

 

 装置の電源は全てバッテリーで大地アースからは絶縁する。と言っても、AC100Vよりは遥かに高いインピーダンスと言う意味。基板から出る電線は電源とスピーカーコードのみ。電源はほぼ絶縁可能なので、スピーカーコードだけが大地アースとの接点になるけれど、一点だけでは電流は流れないので電線の雀となって感電はしない。完璧ではないにしろ、これでほぼ大地アースとの解脱は可能で、何をやっても変わらないという状況になるので、DACやらX-overでの変化のみが分かるようになる。

 

 電線で音が変わってしまうのは環境が宜しくないという意味。特に電源コードとかUSBコードで変わるのであれば、原因はほぼ一つに絞られる。実際の測定も不可能ではないけれど、その仮説で大地アースとの絶縁度を上げると電線で変化するような事は無くなって、正しい状態になる。試聴とかその他は、まずこの環境にならないと意味がない。再現性がゼロなので。

 

 もう一つ重要なのは、実際の使用環境で測定する事。DAC単体で測ったとしても意味はない。マルチシステムであれば、DACの入力のデジタルデータとパワーアンプの出力との関係にしか意味はない。通常そういう測定は、物理的にも多種多様な使用環境的にも無理なので出来ない。唯一つ可能なのは、個人が自分の環境でそういう測り方をする事。なので、意味のある測定と言うのか、測定値と聞いた音との関連を云々するのであればそういう測り方しかなくて、装置自体がそういう構成になっていないと無理。そういう構成で自作するのが必須と言う意味。

 

 DACではなくてパワーアンプの出力で見ると、一番良いのはこんな感じ。8Ω負荷で5Wぐらいでの数字。THDもSNも少し悪くなる。負荷が軽いとTHDはほとんど劣化しないかも。デイスクリートDACのTHDは、アンプとかスピーカーのTHDとは基本的に別物。比較しても意味はない。似てはいるけれど林檎とオレンジを比べる事になる。市販のDACチップだとまた違うかもしれないが。なのでアンプのTHDは飾り程度。 

 

 一番悪いのがこれ。THDが悪化するのは、多分出力のトランジスタのアンバランス。でもSNが変化する訳ではないので、スピーカーの歪が良くても-60dB程度なのを考えれば、気にする必要はない。もしもディスクリートDAC側でこれだけの変化がある場合、必ずSNも悪化するので問題。アンプならば参考程度。

 

 上の二つは低音用のDAC。高音側は2.4kHzから7.2kHzで使っているのがこれ。パワーアンプの出力で8Ω負荷で1Wぐらい。スピーカーは110dBm/wを超えるので、ほとんどヘッドフォンアンプ。レベルが下がっているのもその関係。マルチシステムの利点として、禁断の手を使えば高音側でSNを非現実的な数字に出来る。これはADCの測定限界なので0dBからの値に換算しても普通だけど、実質的には125dBぐらいのはず。

 まずはDACの負荷抵抗を6dBぐらい下げる。これでノイズレベルがほぼ6dBぐらい下がる。信号も同じく下がるのでこれだけでは意味がない。なのでデジタル側で信号レベルを6dB上げる。結果として、ノイズだけが6dB下がって信号はそのままとなり、SNは6dBぐらい上がる。全帯域のDACでこの手は使えない。最大振幅が-6dBFSになってしまうので。マルチの場合は帯域が狭くなっているので、超絶の海苔波形でない限り、2.4kHzから7.2kHzの信号は最大振幅が-6dBFS以下に収まるので問題なし。SNは上がる。

 

 これは7.2kHzより上の高音。これだけは128OSRにして、96kHzサンプリングでは量子化ノイズが出ないようにしている。上の高音用は64OSRなので少し量子化ノイズが出て来る。特に気にする必要はないだろうけれど、SACDのようになるのは見た目が宜しくないので。欠点として、少しSNが悪くなる。

帯域外ノイズはこんな感じ。周波数軸。

無信号時のノイズの時間軸波形。

64OSRだとこれ。ゼロ点の間隔が192kHzごとになる。128OSRだと384kHz。自作品なので、こんな微調整はタダ。128OSRにしないと、25kHz以上ではノイズシェービングが効かなくなってくるので、DAC単体でのTHDも悪くなる。単純にTHDだけの問題で、アンプのTHDに近い話だとは思うけど。

 


 

 最後にホワイトノイズで測った各帯域の分割状況。800Hzぐらいのクロス。パワーアンプの出力。可能な限り肩特性を急にすると、より自然な音になる。可能とはタップ数ではなくて、反応速度の事。タップ数を増やすと反応速度は落ちるので最適なタップ数は1kか2kぐらい。それ以上では肩特性が急峻にはなっても、反応が遅くなって常に変化する音楽信号には追いつけない。正弦波を入れて測るのは無意味。

 2.4kHzぐらいのクロス。

7.2kHzぐらいのクロス。

 

 八台出来たので、現行品と全て入れ替えて試聴。今ので既に三年ぐらい使っていて特に不満もないので、敢えて変える必要はない。問題がない限り変更はするな、という格言があるので、仕事であれば替えないけれど趣味なので実験として交換。もちろん、激変なんて期待しない。もしもするならば今のが最低という事になるし。

 

 なので今と同じであれば合格。ディスクリートDSMでも実用になるとの証明。結果は良い方向に少しだけ予想外。ピアノソナタとかジャズのカルテットのようなものでは差は分からない。クラシックのオーケストラになると、新しい方が少し分離度が高い。聞き慣れた曲で、オーケストラの中の各楽器がより鮮明に聞こえる。多分、三回も聞けばその違いには気付かなくなる程度の差だけど。

 

 この分離度の高さと言うのは、X-overの肩特性を急峻にした時の傾向とよく似ている。非常識なほど急にした方が良い。120dB/octとか。ここまで上げると、圧倒的に各楽器が鮮明になる。ABテストでもハッキリ分かる程度。生の演奏も分離度は高い。分離度というのを意識しては聞かないけれど。オーディオ再生で同じにはなりえないとしても、限りなく傾向は近くなる。そうなると、あんまり音質は関係が無くなって、SPであっても結構楽しめる。

 

 良い音と言うのは、楽しめるか否か。音質的に劣っていても、不自然さがなければ楽しめる。音楽的と言うのとは少し違うかも。楽しめる音を音楽的と言うのは不可能ではないかも知れないが。という訳で、今まで以上に古めの録音でも十分に楽しめる音になったと思う。大地アース関連のノイズもさることながら、色々な不自然さが無くなると、音質とは無関係に楽しめる。当然、長時間聞いても疲れない。

mofi-gate事件。現実と幻日の狭間。

 昔ウォーターゲート事件と言うのがあって、以降は何かの疑惑があったりするとXX-gateと称する事が多い。今、主に英語圏のオーディオ界隈でチョー盛り上がっているのはmofi-gate事件。mofiとはmobile fidelityという過去の名盤をマニア向けのレコードとして発売してきた老舗のレーベル。最近のレコード売り上げに大きく貢献しているブランド。なにしろ高価格。

 

 45回転だと、$200は超えるのでないだろうか。33回転でも$100するはずなので。限定販売ですぐに売り切れる。eBayで探すと、元値の倍はするのでなかろうか。人気の元は散々使い古されたフレーズではあるけれど、「オリジナルマスターテープからの復刻」。問題になっているのは、その復刻過程でDSDつまりはデジタルの処理をしていたという事が明らかになったから。

 

 これはどうも昔から少し曖昧だったらしい。他の復刻レーベルのspeakerscornerとか analog productionsは復刻過程を全部明らかにしていて、デジタルの処理は一切含まれていない。mofiにはそこまでの透明性はなくて、one-stepという製造方法でレコードを作っていますよ、というのが売り。ただ、彼等のレコードを多くの人がベストであると激賞していたのは事実。

Technologies – Mobile Fidelity Sound Labs

 

 ここは70年代ぐらいから商売しているので、その時代は言うまでもなく全部アナログ。なのでユーザーからすると、今に至ってもずっとアナログなんだろうという思い込みが強かったのかもしれない。実際、それらしき事を明示はしていないが暗示するぐらいのことはあったみたい。でもその界隈では、100%アナログ処理と皆は確信していたので、実は違ったというのでオオワラワ。

 

 これはかなり難しい問題で、どこに視点を置くかで何に対して問題視するかが違って来る。一番確かなのは、ある程度の意図を以てデジタル処理を隠していたのは間違いないので、倫理的な問題。不誠実であると。但し、法的な問題にまで発展させられるほどの証拠はないらしい。そうならない程度の曖昧さでもって、アナログ処理ですよ、と宣伝していた。倫理上問題であっても、損害賠償までにはいかないもよう。

 

 そこから先は、アナログ信仰の有り無しで大きく二つに分かれる。アナログ至上主義の人にとっては、デジタルのデの字があっても許せない。mofiの音が良いのは誰もが認める事で、アナログ信者であれば、デジタル処理していないからそうなんだ、と思い込む。些か曖昧なmofiの宣伝文句を見たとしても。アナログ凄いよね、万歳と言ってきた。

 

 ところが卓袱台返しされたので、激怒。100%アナログのために高い金も払ってきた。損した上にプライドまで傷つけられたので、怒髪天を突く。youtube見ていると、そんな感じの人が多い。mofiは謝罪しろと言ってる。そして事の発端となったビデオを公開したyoutuberがmofiに突撃取材して、現場のエンジニアからその事実を確かめた。彼等はあっさりと言っている。30ipsのテープよりもDSD256の方がより正確なんだと。

 

 アナログ信者にはどうもその言い草が気に入らないようにみえる。彼等は謝罪するべきだと言っている。そして突撃したyoutuberの努力は評価するが、質問が曖昧であってプロのジャーナリストと共に行くべきであったと。しかし意図的に隠したのは営業側なんだから、現場のエンジニアに権限はない。謝罪するのであれば営業側であって、エンジニアは無関係。 

 

 そういう硬めの取材だと、ホントの話はしないし、そもそも受けない。雑談に毛の生えた程度だったからこそ、少なくともエンジニアの本音は聴けた。法的論争にしてしまうと、もう無理な話。もう少し意地悪な見方をすると、30ipsがDSD256に劣ると言われたことに憤慨している。彼等はプロだから、最終製品がベストになるような選択しかしない。現場の人間とお客さんとはそこが決定的に違う。

 

 回路設計者であるとかマスタリングの職人は現実しか見ない。最善な方法論を常に目指す。デジタルがアナログを凌駕しているのであれば使う。そうでなければ使わない。それだけの事。アナログ神話はなくて現実のみ。お客さんはアナログ神話という幻日を見ている。幻の太陽を本物と勘違いしている。現役のエンジニアだと大きな声では言えないが、客の言う事なんか聞いてたらまともなもんは作れんぞ、が本音。そのためには、仕事辞めて趣味としてまっとうな物を作るしかない。

 

 要は、何を求めているかが違う。アナログ神話を捨てずに良い音にしたいのか、それを捨ててでも良い音にしたいのか。その視点がそもそも違っているから、供給側この場合は現場のエンジニアとお客さんとは話がかみ合わない、と思う。現実論として、デジタルを含むか否かは最終目的のための一つの要因に過ぎなくて、全てではない。現場の人間にしか分からないもっと決定的な要因は幾つもあるはず。デジタルのみに拘るのは愚かで、木を見て森を見ず。

 

 レコード製造の過程を眺めると、一番のキモはカッティングでないのかなと思う。ラッカー盤を刻む工程。speakerscornerだと、マスタリングエンジニアの名前よりもカッティングエンジニアの名前を上げている。もちろん経験ないのだが、これは究極のアナログなので相当な熟練が必要なはず。到底マスタリングの比ではないだろうと、想像がつく。ここでヘタを打てば全ては終わり。デジタル云々の出番なんてない。

 

 mofiの場合、万を超える数を出している。このような金属原盤から直接プレスする場合、2500ぐらいが限界だと思う。限定販売はたいていその位の数。なので複数の金属原盤がないと物理的に不可能。普通のレコードならば、スタンパーというのがそれに相当する。その場合、毎回ラッカー盤を作るのか、それとも金属原盤だけを元のラッカー盤から作るのかは書いていない。どっちが良いのかは分からないし、もしもラッカー盤から作るのであれば、最初のと同じには決してならない。

 

 33回転と45回転でも大きく違う。これは聴くよりも見た方が早い。明らかにDレンジが違うのが分かる。音を聞いても全然違う。テープにすると15ipsでも45回転より更に良いと思う。そして30年以上のキャリアのエンジニアが言うのだから、DSD256は30ipsよりも良いのでしょう。というか、元との変化がないというのが正しいかも。テープのような回転系で高い時間精度を出す事は難しい。

 

 まだアナログのテレビだった頃、色はサブキャリアの位相で表していた。プロ用だと、1nsずれると、つまりはジッタがあると色のにじみになる。70年代後半ぐらいの初期のプロ用ビデオは、とんでもなくでかいリールで弾性を持たせたりしたけれど、到底

1nsには及ばなかった。解決したのはデジタル化。やっと映像用の8bitADCが開発されて、FIFOで時間軸補正すると完全に解決した。

 

 テープがDSD256に劣るというのは当たり前の話、聞いてどれだけの差になるのかは分からないけど、プロならば気になるのでしょう。想像だけど、作っている側の人間からすると素人のアナログ幻想には付き合ってられない、が本音。突撃取材の時のエンジニアの態度が気に入らん、と言うのはあながち嘘でなくて、彼等の本音がにじみ出ていたのでないだろうか。

 

 最終製品のレコードを最高にするために俺たちは最善を尽くしている、デジタルはそのための一つの手段に過ぎない、なのにどうしてこんなに大騒ぎするんだよ、あんたら欲しいのは良い音でないのかい、と言った塩梅でないのかな。枝葉の話ではなくて、もっと大局的に全体を見てくれよ、うんざりだぜと。

 

 更にもっとオタクに突っ込むならば、DSD256は決して最善ではない。今となってはかなりの悪手。DSDの説明として、1bitにすると製造の過程がシンプルになるので良い、なんて書いてある。意味不明。1bitでの編集なんて原理的に不可能だし、64bitなら複雑でダメなんて事もない。デジタルなんだから、どっちでも同じ。DSDの利点は、sacdのような限られた容量に収められるという点以外にはない 。

 

 レコードにしろテープにしろ再生するためにはそれなりの装置が必要。その性能次第で音はどうにでも変わる。デジタルのDSDでもPCMでもやはり同じ。再生装置(DAC)が必要で性能はそこに依存する。より簡単に安い再生装置で間に合うような方法論が正しい。神話でなくて技術で語るのであれば、答はデジタルであるしDSDではなくPCM。DSD256でも意味はない。

 

 DSDの問題は古い規格であること。DSD256はsacd(DSD64)に縛られる事はないので現代的になっているかもだけど、DSDと1bitDSMは基本的に別物。同じ1bitのDSMであるけれど、変調方法が違う。sacdの変調は、今の1bitDSMに比べるとかなり落ちる。時代が古いので仕方のない事。今の1bitDSMでも、本質的な短所はやはり残る。

 

 例えば、D90はI2S入力があるので、DSDでもPCMでも直接入れられる。歪はどちらでもほぼ同じだが、S/Nでは5~6dBぐらいDSDは悪い。これは1bitDSMの原理的な問題でどうしようもない。PCMだと121dBぐらいだが、DSDだと116dB程度。DSD256だと同じか少し悪くなる。DSD128ぐらいが最善。現実のDACという場合、クロックを上げても必ずしも結果は良くない。DSD512は間違いなく数字ではDSD128より悪い。

 

 ラッカー盤を作るのであれば全然問題にならない程度であるけれど、アーカイブとして残すのであれば、わざわざPCMの劣化版であるDSDを使う必要はない。アナログ神話の様にDSD神話と言うのもあるので、DSDでの保存と言う話は良く聞く。技術論としては賢い方法ではない。30ipsがDSD256に劣るという話が不興のように、DSD<PCMも好まれないみたいだけど(お客さんに言うと不興を買うでしょう)。

 

 DSDというかDSMを使うのは、あくまでもDACとして再生する時の方便なので、使い道は限られている。実際、市販性のDSMDACは1bitも可能であるけれど、押してはいない。数字が出ないから。ディスクリートDACを作る時には、直線性の問題がない1bitは有利であるけれど、S/Nでの不利はハイエンドになって来ると中々に難しい。なので良い所取りの出来る2bitというのが、最善だと思う。実際、比べてみると差は歴然。

 

 結局、一部分のみにトコトン拘るお客さんと、最終製品に最善を求めるエンジニアとの間には、必ず乖離が生まれる。mofi-gateの本質はそこ。曖昧にして売り上げを伸ばしてきた営業方針は、いずれツケを払う事になるだろうけど。物の見方は人それぞれなんで、mofi-gateにもいろんな意見がある。騙されて高い金払わされていたのなら、そらぁ怒る。それは当然。でも本質はそこじゃないよね。