デジタルオーディオあれこれ

半田ごての人。紙と鉛筆だけではちょっと。

終に2bitDSMの完成。八台作るのは大変。

 三年ぐらいかかったDSMディスクリートDACが八台完成。マルチシステムの関係で、低音側と高音側の2チャンネルとそのためのX-overが入ったDAC。こんな構成のは自分で作るしかない。元々マルチに最適な装置は数が少なくて、市販品で作ると欠点の方が大きくなってしまいDIYでしか真価は発揮しないのだけど、デジタルの場合は更に。

 

 これまで使っていたのも同じ構成でパワーアンプとの接続も合わせているので、DAC部分だけの入れ替え。パワーアンプというのは九割方は保護回路だとかバイアス電流の制御だとかで、アンプの部分はほんの僅か。マルチなので低音用と高音用では出力もかなり違う。とはいえ、低音用が5Wで高音用が1W程度。低音側でもスピーカーは100dBm/Wを軽く超えるので、その程度で十分。

 オーディオ製品の場合、基本的に基板の外に電線を出してはいけない。出すと、外来ノイズの影響を排除できないので、120dBのようなSNは到底無理。DAC等のグランドはこれこそが正に「仮想グランド」であって、真のグランド電位は大地アース。つまりは地球。AC100Vを使う限りはこの無間地獄からの解脱は無理で、全ての電線は大地アースに向かうノイズ電流の経路になる。

 

 現象としては、何をやっても音が変わるとか、正月は音が良いとか、電線で音が変わるとか、オカルトのアース関連グッズでも大きく変わる。変化するだけで決して良くはならない。ついつい変化≒改善の気になるけれど、ほんとに改善したのならばもうそのままで変更はしないもの。スピーカーの位置も然り。ほんとに良くなったのならば、調整は忘却の彼方となって後は聴くだけになる。音の良さとは、調整に逆比例。

 

 デジタルデータの場合、トランスポートのようなものからデジタルデータがDACに入る。USB、LAN、IIS、SPDIF等がその手段。SPDIF以外は電線なのでボツ。アイソレートトランスは、高周波成分に対しては気休めにしかならない。手段は光しかないのだが、SPDIFは構造的に120dBのSNは出ない。非同期で取れば可能だけれど、マルチシステムでは各DACの周波数が合わないのでやはりボツ。

 

 SPDIFはクロックの再生に問題があるので、例えば位相変調のような形でデータを送れば問題なく120dBのSNは取れる。他にも方法はあるだろうけれど、FPGAを使うのであればこれが簡単と思う。なのでSDカードからwavファイルをトランスポートで読んで、光で八台のDACに送る。各DACの周波数は同期するし、ボリュームもトランスポート側で制御する。

 

 装置の電源は全てバッテリーで大地アースからは絶縁する。と言っても、AC100Vよりは遥かに高いインピーダンスと言う意味。基板から出る電線は電源とスピーカーコードのみ。電源はほぼ絶縁可能なので、スピーカーコードだけが大地アースとの接点になるけれど、一点だけでは電流は流れないので電線の雀となって感電はしない。完璧ではないにしろ、これでほぼ大地アースとの解脱は可能で、何をやっても変わらないという状況になるので、DACやらX-overでの変化のみが分かるようになる。

 

 電線で音が変わってしまうのは環境が宜しくないという意味。特に電源コードとかUSBコードで変わるのであれば、原因はほぼ一つに絞られる。実際の測定も不可能ではないけれど、その仮説で大地アースとの絶縁度を上げると電線で変化するような事は無くなって、正しい状態になる。試聴とかその他は、まずこの環境にならないと意味がない。再現性がゼロなので。

 

 もう一つ重要なのは、実際の使用環境で測定する事。DAC単体で測ったとしても意味はない。マルチシステムであれば、DACの入力のデジタルデータとパワーアンプの出力との関係にしか意味はない。通常そういう測定は、物理的にも多種多様な使用環境的にも無理なので出来ない。唯一つ可能なのは、個人が自分の環境でそういう測り方をする事。なので、意味のある測定と言うのか、測定値と聞いた音との関連を云々するのであればそういう測り方しかなくて、装置自体がそういう構成になっていないと無理。そういう構成で自作するのが必須と言う意味。

 

 DACではなくてパワーアンプの出力で見ると、一番良いのはこんな感じ。8Ω負荷で5Wぐらいでの数字。THDもSNも少し悪くなる。負荷が軽いとTHDはほとんど劣化しないかも。デイスクリートDACのTHDは、アンプとかスピーカーのTHDとは基本的に別物。比較しても意味はない。似てはいるけれど林檎とオレンジを比べる事になる。市販のDACチップだとまた違うかもしれないが。なのでアンプのTHDは飾り程度。 

 

 一番悪いのがこれ。THDが悪化するのは、多分出力のトランジスタのアンバランス。でもSNが変化する訳ではないので、スピーカーの歪が良くても-60dB程度なのを考えれば、気にする必要はない。もしもディスクリートDAC側でこれだけの変化がある場合、必ずSNも悪化するので問題。アンプならば参考程度。

 

 上の二つは低音用のDAC。高音側は2.4kHzから7.2kHzで使っているのがこれ。パワーアンプの出力で8Ω負荷で1Wぐらい。スピーカーは110dBm/wを超えるので、ほとんどヘッドフォンアンプ。レベルが下がっているのもその関係。マルチシステムの利点として、禁断の手を使えば高音側でSNを非現実的な数字に出来る。これはADCの測定限界なので0dBからの値に換算しても普通だけど、実質的には125dBぐらいのはず。

 まずはDACの負荷抵抗を6dBぐらい下げる。これでノイズレベルがほぼ6dBぐらい下がる。信号も同じく下がるのでこれだけでは意味がない。なのでデジタル側で信号レベルを6dB上げる。結果として、ノイズだけが6dB下がって信号はそのままとなり、SNは6dBぐらい上がる。全帯域のDACでこの手は使えない。最大振幅が-6dBFSになってしまうので。マルチの場合は帯域が狭くなっているので、超絶の海苔波形でない限り、2.4kHzから7.2kHzの信号は最大振幅が-6dBFS以下に収まるので問題なし。SNは上がる。

 

 これは7.2kHzより上の高音。これだけは128OSRにして、96kHzサンプリングでは量子化ノイズが出ないようにしている。上の高音用は64OSRなので少し量子化ノイズが出て来る。特に気にする必要はないだろうけれど、SACDのようになるのは見た目が宜しくないので。欠点として、少しSNが悪くなる。

帯域外ノイズはこんな感じ。周波数軸。

無信号時のノイズの時間軸波形。

64OSRだとこれ。ゼロ点の間隔が192kHzごとになる。128OSRだと384kHz。自作品なので、こんな微調整はタダ。128OSRにしないと、25kHz以上ではノイズシェービングが効かなくなってくるので、DAC単体でのTHDも悪くなる。単純にTHDだけの問題で、アンプのTHDに近い話だとは思うけど。

 


 

 最後にホワイトノイズで測った各帯域の分割状況。800Hzぐらいのクロス。パワーアンプの出力。可能な限り肩特性を急にすると、より自然な音になる。可能とはタップ数ではなくて、反応速度の事。タップ数を増やすと反応速度は落ちるので最適なタップ数は1kか2kぐらい。それ以上では肩特性が急峻にはなっても、反応が遅くなって常に変化する音楽信号には追いつけない。正弦波を入れて測るのは無意味。

 2.4kHzぐらいのクロス。

7.2kHzぐらいのクロス。

 

 八台出来たので、現行品と全て入れ替えて試聴。今ので既に三年ぐらい使っていて特に不満もないので、敢えて変える必要はない。問題がない限り変更はするな、という格言があるので、仕事であれば替えないけれど趣味なので実験として交換。もちろん、激変なんて期待しない。もしもするならば今のが最低という事になるし。

 

 なので今と同じであれば合格。ディスクリートDSMでも実用になるとの証明。結果は良い方向に少しだけ予想外。ピアノソナタとかジャズのカルテットのようなものでは差は分からない。クラシックのオーケストラになると、新しい方が少し分離度が高い。聞き慣れた曲で、オーケストラの中の各楽器がより鮮明に聞こえる。多分、三回も聞けばその違いには気付かなくなる程度の差だけど。

 

 この分離度の高さと言うのは、X-overの肩特性を急峻にした時の傾向とよく似ている。非常識なほど急にした方が良い。120dB/octとか。ここまで上げると、圧倒的に各楽器が鮮明になる。ABテストでもハッキリ分かる程度。生の演奏も分離度は高い。分離度というのを意識しては聞かないけれど。オーディオ再生で同じにはなりえないとしても、限りなく傾向は近くなる。そうなると、あんまり音質は関係が無くなって、SPであっても結構楽しめる。

 

 良い音と言うのは、楽しめるか否か。音質的に劣っていても、不自然さがなければ楽しめる。音楽的と言うのとは少し違うかも。楽しめる音を音楽的と言うのは不可能ではないかも知れないが。という訳で、今まで以上に古めの録音でも十分に楽しめる音になったと思う。大地アース関連のノイズもさることながら、色々な不自然さが無くなると、音質とは無関係に楽しめる。当然、長時間聞いても疲れない。