デジタルオーディオあれこれ

半田ごての人。紙と鉛筆だけではちょっと。

pcm1704の替りを見つける積りが、DSMとの同棲関係に。

 最初に自作したDACは、もう20年近く前の事でpcm1704だった。その後は暫くそっち方向にはご無沙汰で、再び始めたのは部屋を建て始めた頃で今は死語となりつつある南ア大会のブブゼラの音が鳴り響いていた。時代は既にDSMに変わっていたけれど、pcm1792と比べてみたら、どうもやっぱしpcm1704が良くて、以来今までマルチビット専門。クラシックに必須の濃いい低音がDSMでは出なかった。

 

 とはいえpcm1704は段々と廃版に近付いていたから、替りを模索しつつデジタルのクロスオーバーとSDカードからの読み出しも。今年はもう完全にpcm1704の絶滅宣言。自分で使う分は昔の在庫で賄えるけど、なんとか後釜は見つけられたような感じ。

 

 pcm1704の最大の特徴は、グリッチが出ないこと。マルチビット系のチップは、TDAxxxxとかADxxxxがフェイクも含めてまだまだ手に入るし、産業用のLTC2642とかも含めるとそこそこある。でもグリッチフリーはpcm1704だけと思う。pcm1702は、はてどうなのか寡聞にして知らないが。

 

 中でも素性が良さそうだったLTC2642は、暫く使ってみて悪くはなかったけれど意外な事にpcm1704とは少し音質に差があった。LTC2642は、ビデオ映像のように鮮やかで陽性。pcm1704は、フィルム映像のようで些か解像度は落ちるものの味がある。結局の所、やっぱり元のpcm1704に戻ってしまった。グリッチのあるなしが原因か、定かではないにしろ。

 

 LTC2642は16bitのモノトニシティを保証しているので、THDを測るとpcm1704よりも良い。16bit精度であることは、軽いDSMでそれ以上の解像度に出来るので問題にはならない。精度は残留ノイズで決まる。SNが若干pcm1704よりも悪いのは、グリッチの影響もあるのでないかと思う。悪くはないが置き換えは無理かなあ、との結論。

 

 DACに関してはここで頓挫。レコードのデジタル化にADCが必要で、精度の高いものが用意できるならば、DACのノイズ解析にも使えて一石二鳥となるので、暫しADCに寄り道。そのADCが去年ぐらいには完成したので、捲土重来で再びpcm1704の代替品探し。そのためには歪の小さい発振器が必要となるので、ちょっと手を出したDSMにはまってしまい、一年ぐらいかかった末に何とかマルチビットも終着駅。

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 ADCはSAR型のAD7960。ADCも最近はほとんどがDSMになっているけれど、SNに関しては圧倒的にSARだと思う。THDは似たようなもの。SARは自前でアンチエイリアシングのFIRフィルターであるとか、IISの変換などを作る必要があるので、産業用が多いかも。市販品で音声用に使っているのは稀と思う。

 

 AD7960を最大の5MHzサンプリングで使い、個体間の違いがほとんどないのでLとRをインターリーブして10MHzにするならば、125dBのSNが確保できる。DSMのADCは、結構LとRの差があるのでこういう使い方は出来ない。多分、DSMで120dBを超えるのは現実論として無理。レコードのデシタル化にこんな性能は意味ないけれど、測定用も兼ねるので去年作った最新版ADC。

 

 これで色々なDACチップの微小電圧特性を見る。THDは、スピーカーや録音時のマイクの性能で制限されるので参考程度。SNは、デジタルのクロスオーバーを使う場合、かなり問題になる。人の耳の一番感度の高い2kHzから4kHzぐらいは、通常高能率のホーンを使う。低音との感度差の関係で、ここでは信号レベルがかなり落ちるので、結果として実際のSNは悪くなる。現実的に必要なSNをCDよりも悪い90dBとしても、元のSNは110dB程度確保しておくべき。

 

 これが今使っているpcm1704。下がADCの出力で、上がそこから基本波の1kHzを取った残留ノイズ。-90dBFS(0dBFS=6Vpp)での結果。26dBのSNだとこんな感じの波形。これはパラレルなしの一個だけの特性なので、かなり良い。今はもうアラブの金持ちぐらいしかできない贅沢で、四個パラにするならばあと6dB良くなるという按配。白い点が実際のサンプリングデータ。

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 こちらがちょっと鮮やか過ぎた感のあるLTC2642。3dBほど悪い。グリッチの影響があると思う。

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 とはいえ、LTC2642のグリッチは0.5nVsecという事で、産業用や音声用の中では一番良い。実測値もそれに近い。ただ問題なのは、これが全ての1/64の境界で出てしまう事。一番大きいのは所謂このゼロクロスの時みたいだけど。その影響は数字的に否定できない。音質面での違いと関連するかは分からないが。一番のとびっきりをもってきても、このぐらいは出てしまうのが現実。

 

 ディスクリートで作っているマルチビットDACがどの程度かは、言わずもがな。知らぬは亭主ばかりなりで、世の中には知らない方が幸せな事がいろいろある。これもその一つ。知らなくていい事を、それを知る前に分かるのであれば、それは賢者というもの。the wisest とは、そんな人。

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 このグリッチ問題は、「ゴルディアスの結び目」のようで視点を変えないと解けない。アレキサンダー大王の剣は、何のことはないRF用の高速DAC。例えば、少し古めのDAC2904は0.002nVsec。これは当然と言えば当然。こんな100MHzを超える高速DACの場合、200nsのグリッチが出てしまうと全く話にならない。

2mV*1ns=0.002nVsecだけど、実際はほとんどゼロ。 

 

 最新の物になると、もうグリッチのデータは出ていない。どっちみちゼロなので書く意味がない。但し元々が広帯域用なので、狭い帯域の音声用に使えるものは限られる。狭帯域では、多分内部の電流源の特性でSNが良くない。AD9717(14bit)が今の所一番良い。この手のRFの旗艦チップAD9747(16bit)は、狭帯域には全く向かない。

 

 AD9717はデュアルなので最低でも二個パラ。でもまあそんなに高いものでもないので(¥2000)、四個パラにするとこう。パラにすると、勿論SNは単純に良くなる。最新型らなると、更にその上におまけがついてくる。この手は内部に自己校正の機能がある。これは512*32=16384で、32バンクの512DACで出来ている。

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 誤差が出るのは次のバンクに移る時で、LTC2642は多分64*1024=65536。バンクが変わる時、AD9717はグリッチは出ないけれど、誤差は大きくなる。その誤差を内部的に校正できるようになっている。スロットマシンのようで、何時当りが出るかは分からない。何度か試して良いのを使う。

 

 四個パラの場合、それぞれが別個の校正をするので、時々大当りが出る。この校正値は保存可能なデジタルデータなので、当りが出るまでくじを引けば良い。二夫にまみえず、なんて禁欲は必要ない。何度でも何度でも望むがまま。この大当りはTHDに関するものなので、SNにはあんまり関係しないけど。

 

 昔ならば、奮発して20個ぐらいのチップを用意して、その中から選りすぐりの4個を選ぶのと同じ。だいたい20回も籤を引けば、そこそこの当りは出る。勿論、何回引いても初期費用のみで追加料金はゼロ。温度特性も大きく改善するので、四個パラはかなり強力。八個もソフト的には試せる。単純にADCのデジタル出力を足し合わせるだけ。

 

 ハードウエア的に加算しても、劣化なしで同じ結果になる。何故かと言えば、IV変換は抵抗一本のパッシブ型。ほとんど電位差のない信号同士をつなぐだけなので、劣化はない。pcm1792や音声用のDACの場合、基本的にパッシブ型は無理。コンプライアンス電圧が低いので、SNが悪化する。頑張ってパッシブやってる人もなくはないけど。

 

 RF用はトランスでのIVが標準。高周波なのでSMDの小さなトランスで間に合う。音声用のごつい出力トランスは不要。しかし1Vぐらいのコンプライアンス電圧は許容範囲なので、音声用にはパッシブが最善。単純につなぐだけ。NDAは論外だし興味もないけど、ESxxxxも基本的には並列化で性能を上げる。でもバッシブは無理だから、現実論として劣化なしの高電流はあり得ない。それを使いこなしの問題とするならば、オーディオメーカーが喜ぶだけで、ユーザーはやらずぼったくりの憂きめ。簡単に実装できるのが優れた製品というもの。

 

 うちの環境で使うためには八台必要。来年の春までにはどうにかしたい。違和感なく乗り換えられるはずなんだけど。